【感想】「風立ちぬ」

 「風立ちぬ」,日,2013,原作・脚本・監督 宮崎駿,(品川プリンスシネマ)

※感想はネタバレ有りです

 

 

まずはラジオでこれを聴き!
・町山智浩映画解説 宮崎駿『風立ちぬ』 http://miyearnzzlabo.com/archives/16031

さらにPodcastsでこれも聴き!
・宇多丸映画評論 宮崎駿『風立ちぬ』 http://miyearnzzlabo.com/archives/16028

そしてテレビでこれも見て
・宮崎駿(2013年8月26日放送)| NHK プロフェッショナル 仕事の流儀
 http://www.nhk.or.jp/professional/2013/0826/

 

私にしてはめずらしく、事前情報をたんまり入れてから、見に行きました。

結果としては、

・町山さんとウタさんの解説は聴いといてよかった!
・NHKのは見なくてよかった、というか見ないほうが良かったのかもなあ

という感じでした。

実際のところ、ラスト15分?(零戦が完成して、菜穂子さんが山へ帰って、戦争が終わり、何もかも失って・・・そしてユーミンの「ひこうき雲」が終わるまで)くらいは号泣でした。映画やドラマで涙することがあっても「号泣」レベルはめったにないんですけどね。
ユーミンの歌って昔から全然関心無いんだけど(笑)、今回は、メロディ、歌詞、声、なにもかも全部ドンピシャでした。ぐいぐい胸えぐられる感じ。うえーん。

というわけで涙の量はかなりなものだったんですけど、一晩明けてみると、そうや、イッパイ泣いたからっていい映画、ってわけでもなかったわと少し冷静になりました。

一言で言うなら、「ロマンチック!!ザ・メロドラマ!!!」な映画。
つべこべ説明やらテロップがないので余計そう思いました。そのせいか、ちょっと外国の映画っぽい気もしました。
日本の、戦前~戦中の話で、歴史やだいたいの背景が分かるからいいけど、これが外国の、ある時代の話だったら全然ピンとこなかっただろうなぁ。

二郎さんと菜穂子さんの話は、ほんとにベタな手垢つきまくりのメロドラマなんだけど、これがあるからこそラスト、一気に心情がもりあがって映画としてまとまったんだろうという気もしました。 
瀧本美織ちゃんの声はとてもよかった。あの、ちょっと現実感のない薄幸の美少女が、美織ちゃんの、舌足らずな甘ったるい、けど品を失わない声のおかげでより魅力的になっていたと思います。
あの、かぁいらしい声で迫られたら、こりゃ男はヨロめくよな~!とおばさんの私でも思ったわ(笑) 

私は、丁寧にきっちり作られたメロドラマ、昔から弱いんです。すぐ泣いちゃうんです。
ベタやな~と思ってても。

で、よくよく考えてみると、これって、「劇場版銀河鉄道999」「劇場版さよなら銀河鉄道999」の時に似てる、と思い当たりました。

999でも繰り返し語られた「少年の夢」。少年のロマンチシズム。
いつまでも子どものように夢を捨てきれず追いかける男の子への、あこがれを感じ、そうはなれない自分を感じて切なくなるという感じでしょうか。もしくは、自分では味わえない心境・境地に、アニメを通じて擬似的にひたれる喜び、とも言えるのかもしれません。

私自身も、いい年の大人の女にしては子供っぽいところが残っている方で、けっこうオタク気質だと思うけれど、でも、男性の純粋につきつめるタイプの人には絶対かなわないと思っています。
わたしゃもっと現実的です。土壇場になったら、生活するためだったら、お金を稼ぐために手段を選ばないつもり。好きなことだけに埋没するなんてお気楽なことやってられんわ!って常にどこかで思ってます(笑)
現実的というより、現実に流されがち、というかんじですかね。

だから、ああいう二郎さんみたいな、周りが見えなくなってしまう子供っぽさを抱えたまま、新しいものを生み出そうとする人、それが世間的にどういう評価をくだされようとブレない姿勢に、ええなぁそんなんできて、と羨ましくてならないのです。

そんな風に感じたのだけど、同じ女性である菜穂子さんに対する感情移入は、ほとんどなかったです。
二郎さんに「きれいだよ」と言われて、ああ好きな人にそう言われるのってうれしいやなーって思ったりはしたけど。
菜穂子さんは、謎の美女メーテル並みに「青春の幻影」でした。美しくて気高くて。でも男性に甘える姿勢もあって。 男性からみた、ある意味理想の女性だったと思う。
だから、オトナの二人なのに、オトナの男女の機微は全然感じられなかったな。ほんと、本来子ども~若い人向けに作られた映画であっただろう「銀河鉄道999」の鉄郎とメーテルの関係と似たような感じ。

(むしろ感情移入したとすれば、二郎さんの妹の加代ちゃんかな(笑)。「お兄様はヒドイ!菜穂子さんかわいそう!」と怒って泣く姿に「そうや、そのとおりや!あんたが一番正しい!」と膝を打ってた私) 

「風立ちぬ」は、そういう種類の「感動の涙」が大量にあふれたのだと思います。
私が好きな田辺聖子さんの小説とか、NHKの朝ドラ「カーネーション」などでの感動とは全く別。
前者は「自分とは違うが憧れてやまない世界へ触れられた喜び&切なさ」であり、後者は「自分の中にあるが普段忘れていたものを思いがけず掘り起こしてもらってハッとする驚きと怖さ、そして共感の嬉しさ」なんだと思うんだよな。

どっちが良いというわけではなくて、種類が違う、といったところ。

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もうちょっと別の側面からの感想はというと。

要所要所出てくる夢のなかのカプローニ氏のセリフには、その内容にいちいちグッと来ました。
そもそも、かなり最初の方の夢で「ブラボー!美しい夢だ」というセリフでちょっと涙出ました(笑)。アレはなんやったんやろ、疲れてたのか?(笑)

そして何より

「設計で大切なのはセンスだ。センスは時代を先駆ける。技術は後からついてくる」

には、我が意を得たり、スカッと胸がすく思いがしました。
一応、私も絵を描いたりデザインをしたりを仕事にしているものの端くれなので・・・。その前は、会社員として10年弱、システム開発の仕事もやってました。20年くらいの経験から、このセリフの絶対的な正しさを肌身に感じていました・・・。 

もちろん、センスをほんとうの意味で発揮するには、技術も努力も環境(=時代)も必要です。
でもやっぱり、圧倒的な物を生み出すには、センスがないとダメなんですよね。

 

また、この映画は、インテリのエゴの結晶みたいなところもありましたね。
自国の貧困ぶりを嘆きながらも、インテリ富裕層の自分が得た環境は最大限活用してやるんだ、みたいなの。
相棒の本庄さんが分かりやすく言動に出してたけど、二郎さんにしたって言葉に出さないだけで同じ。

ここには、悲しいながら共感してしまったよ。 私もそうだなぁって。
私はボランティア精神とか、社会貢献とか、ほんとうの意味でピンときてないから・・・。
自分の好きな事と自分の周りが守れればいいんや、ってどこかで思ってるからな・・・。

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宮崎駿氏は「今、同じような時代が来たからこの映画を作った。子ども向けの映画を作る時じゃない」ってTVで発言してたけど、私としてはこの映画もそんなに大人向けとは思えなかった。むしろ少年少女向けじゃないの?と。
ビッグな存在になってしまって、何かと発言を求められる立場になってしまったからしょうがないんだろうけど、
「何も言わずに作品を見てくれたらそれでいい、それで各々が勝手に感じるままでよし」という姿勢でいてほしかったなー・・・ってこれは昔からのファンとしての勝手な言い草ですねェ。

 

そして、映画館ではとうとう高畑勲カントクの「かぐや姫の物語」の予告がながれました。
あぁ、たのしみ。 

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