【感想】「かぐや姫の物語」

 「かぐや姫の物語」,日,2013,原作・脚本・監督 宮崎駿,(品川プリンスシネマ)

いやぁ、素晴らしかったです!

先日「風立ちぬ」の感想にこんなことを書きましたが、

…これって、「劇場版銀河鉄道999」「劇場版さよなら銀河鉄道999」の時に似てる、と思い当たりました。999でも繰り返し語られた「少年の夢」。少年のロマンチシズム。

~中略

「風立ちぬ」は、そういう種類の「感動の涙」が大量にあふれたのだと思います。
私が好きな田辺聖子さんの小説とか、NHKの朝ドラ「カーネーション」などでの感動とは全く別。
前者は「自分とは違うが憧れてやまない世界へ触れられた喜び&切なさ」であり、後者は「自分の中にあるが普段忘れていたものを思いがけず掘り起こしてもらってハッとする驚きと怖さ、そして共感の嬉しさ」なんだと思うんだよな。

今回の「かぐや姫の物語」は、まさにこの後者のほうの感動でした。
お話は、まさしく昔から語られ続けた古典の「かぐや姫」であり、そこに意外性は今更日本人なら感じない。ただ、姫が笑って、泣いて、時に喜んで、時に怒る様子は、人間が「生きる」ことで遭遇するいろんなことへの暗喩になっている気がしてならなかったのです。

摩訶不思議なファンタジーであるにもかかわらず、不自然さを感じずにスッと入り込める映画だったのは、慣れ親しんだおとぎ話であるということ以外に、キャラクターや動き、背景のディティールに凝って、ちゃんと作りこんでいるおかげなんでしょうね。
絵の美しさはもちろんですが、やはり動きが秀逸かと。
竹を切り倒すところなどは、切った瞬間から倒れるところまでとても現実な動きなのに、竹が光ったり、小さな姫が現れたりする不思議な場面は突然重力を無視した見たこと無いような動きになることで、差が際立って効果的だなぁと思いました。

キャラクターは可愛らしくてデフォルメしてあって、それなのにリアリティがあるというのは厳密に言うとおかしな話なのですが・・・。でも、こういうカタチの生き物がいたらこんなふうに動くだろうと自然と納得させられてしまう。
多分、現実のモノの動き方と、アニメーションとしてのモノの動きの見せ方、両方を熟知した高畑さんならではの技なんだろうなぁ。

不気味でちょっとずるくて、でもかわいくて憎めない女童が私は一番のお気に入りキャラ。5人の貴公子&帝も、曲者ぞろいで、姿形がそれぞれ演じる役者さんにどこか似ている。でも決して、役者さんのイメージが先行して邪魔するということはない。プレスコで先に声を録ってから制作しているのだから当然なのかもしれないが、高畑さんは声のキャスティングがいつも絶妙だと思う。客が見て違和感がないようにしてくれる。宮崎さんの作品が、ことごとく違和感があるキャラがいる(私は、ですが)のとは対照的。

かぐや姫の朝倉あきちゃんの声もとてもよかった。すがすがしくて。媚びてなくて。
(今、ナウシカを映画化するなら彼女がいいかも!)

京のお屋敷の箱庭で「こんなのは偽物よ!」と暴れまわるシーンは、一番胸が締め付けられました。

生きていることは、ままならないこと。
自分の選択権がないところで、生き方が決まってしまう場合がたくさんある。
また、たとえ自分が選択できたとしても、正しいことだけを選択して生きていくこともできない。
理屈じゃどうしようもない。

単なるいっときの感情で、道を踏み外してしまうこともある。
また戻れることもある。でもやっぱりそのままの場合もある。取り返しがつかないこともある

つらい。かなしくて、切ない。

でもそんなアホな人間だからこそ、楽しいと思える瞬間に立ち会えることが貴重であり、喜びになる。

そんなことを、いろいろと感じてしまう映画でした。

アホな人間のことを、かなりそのまんま描いている映画であり、姫や捨丸は、盗みをしたりとけっこう悪いこともしている。ラスト近くの、姫と捨丸の美しい逃避行シーンは、久々の再会で燃え上がっちゃってる不倫劇でもあり、ある意味イタイ場面でもある。
でもそれが、人間。良いか悪いかという理屈を超越した、人間が生きてることそのもの。
今回の映画のコピー「姫が犯した罪と罰」ってのはてんで的外れ(これは残念)で、「もののけ姫」で使われた「生きろ」というのが一番しっくりくる気がするなぁ。

どなたかの感想で「これは情緒を感じるための物語です」というのを見かけて、うまい表現だなぁと思った。
大人が、自分の体験を思い起こしながら、いろいろと感じ入ることができる映画。
それが、日本ならではの平面的な絵柄で、しかもアニメーションでできているというのが、とても嬉しいのです。

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往年のアニメファンである私がこの映画を見終わった直後に思った、もう一つのことは

「ハイジも、映画のナウシカも、ラピュタのシータも、宮崎さんではなく高畑勲さんが作り上げたキャラクターだったんだなぁ。」

ということでした。
女性が、共感でき憧れる女性を、ちゃんと描けるのは高畑さんだったのですね。
(対照的に、どこまでも清純なお姫様のクラリスは、宮崎さんのモノ)

私が本当に好きだったのは、スタジオジブリの作品ではなく「高畑勲さんの支配下で、宮﨑駿さんが作る作品」だったんだなぁと今頃になって分かりました。
お二人とももう高齢(片方は引退宣言済み)であり、二人による新しい作品が見れることはもう無いのが残念だけど、それもまた「ままならない」こと。

そんな二人の共同作品をリアルタイムで楽しめた、それ自体が、幸せな経験だったんだなぁと、今、思っています。

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