【感想】カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」

小説,カズオ・イシグロ Kazuo Ishiguro,「わたしを離さないで」Never Let Me Go, 早川書房,土屋政雄 訳

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)
カズオ・イシグロ
早川書房
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カズオ・イシグロ作品を読むのは、「日の名残り」以来。

読み始めてわりと早い段階で、臓器提供を目的として生まれた(作られた)クローン人間の話であるということに気が付きました。

人間ではない存在(ロボットなど)が、人格を持つようになったとき、そこに人権は発生するのか?というテーマは、手塚治虫や竹宮恵子などの昔からのSFマンガなどで繰り返し語られているものでそこにそんなに新鮮さはなかったです。突拍子もない設定なのに、舞台は近現代というのがちょっと目新しいのかもしれない。

人のために死ぬことが運命づけられた若者たちの悲劇、というよりは、切ないSF青春ラブストーリー、と言うほうが私にはしっくりきます。切実で、生と死の瀬戸際のギリギリを体験することも、「青春」だと思うので。

ああ、ルースみたいなちょっとずるい女いるよなぁとか、キャシーみたいに抑制がききすぎちゃう人は損するよなぁとか、学園青春モノっぽいキャラクター描写だと思うのです。

あと、全体的な雰囲気は昔読んだ恩田陸「麦の海に沈む果実」を思い出させました。
ミステリアスで緻密な描写が淡々と続くあたり。
(ただ、私は恩田陸作品が好きというわけではない・・・当時の感想はこちら

どっちも、夢中になって最後まで読んでしまうのですけれど、終わった後に、あまり、何も残らないのです。
ふわっとした美しい世界が、なんとなくぼんやりある感じ。
それが魅力といえば魅力なのですが。

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