【感想】「海街Diary」

海街Diary」,日,2015,監督・脚本・演出 是枝裕和,(品川プリンスシネマ)

わたくし、大の原作ファン。
コミックスが出ればすぐ買い、繰り返し繰り返し読んでいる。

吉田秋生といえば、「BANANA FISH」を始め「カリフォルニア物語」「吉祥天女」など名作を生み出し続けているセンセイ。いくつか読んで入るが、この「海街Diary」は私の中ではダントツ。というか私の好きな漫画の中でもかなり上位。
向田邦子や田辺聖子の小説を読むときの感覚にも近い。喜怒哀楽、さまざま感情がやさしく、時に鋭く表現されている。

だから、いくら是枝監督だからって、これを2時間ちょっとの映画にするなんて無茶だと思っていた。
「Diary」だよ、日記なんだもん。長いスパンでつむいでいくお話の妙がこのマンガの柱なのに、映画にしちゃったらその味がなくなっちゃうでしょ!

と、最初からそんな調子で映画館に行くという、観客としては最悪なタイプ。
見た結果、おおむねこの思いは変わらなかった。ほんと客としては失礼ですんません。行くなっつーの。

とても美しい映画ではあった。
鎌倉の古い家が現実になるとああなるんだ、海猫食堂はちょっと古すぎないか、桜のトンネルはやっぱりきれいだな、・・・それは面白い体験だった。菅野よう子の劇伴も上品で美しく響いていた。

そして当然ながら女優陣も美しくて。
その、美しすぎてきれいすぎて、生活感や現実感が乏しかった気がする。

一番違和感があったのは、姉妹がいちいち、にちゃーっと微笑み合うところ。
毎日一緒に生活してる女同士が、お互いを見合わせて長々ニヤニヤしたりしないと思うのよね。
お互いの顔なんかろくに見ないで淡々と生活して、面白い楽しいことがあれば笑って、またすぐに戻ってサバサバしてるのが日常ってもんじゃないかと。
家族内でやたらと笑顔を振りまくのは、他人行儀に見えるというか、もしくは媚びてるようにも見えるというか。
つくりものの世界という気がしてならなかった。

男性の目から見た、理想的な女性像って感じなのかもなぁ。

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姉妹の中で一番ハマってたのは、長澤まさみだった。
明るく開放的な次女・佳乃のキャラにぴったりで、彼女は終始笑顔でもあまり違和感なかったのよね。
あと、母親役の大竹しのぶは、ハマりすぎてて怖いくらいだった。相変わらず怖いよ、ほんとあの人(笑)。
ちょい役だけど、冒頭のお葬式に出てきた中村優子さんも相変わらずうまい。ちょっと嫌な女の絶妙なさじ加減、素晴らしいっす。

2時間の映画にまとめることでいろいろと端折られまくるのは予想できていたが、すずちゃんパートがとにかく浅かったのが残念だった。
最初にも少し述べたが、この作品はそれぞれのキャラクターの生活をそれぞれの視点でじっくり描き、季節の移ろいとともに平行して進んでいくのが味わい深いのだ。
幸や佳乃達の大人のドラマと平行して、すずちゃんや裕也(映画では出てこない)、風太、みぽりんたち中学生のドラマも同じ重力感を持って描かれていて、それが本当にキラキラとしていて素晴らしいのだけど・・・。
映画を見る限りだと、すずちゃんは、健気な美形の女の子ではあるけれど、それ以上の魅力が感じられなかった。
女優さんが悪いというよりは、これはもう時間の制約上仕方ないと思う。
それでも、広瀬すずはちょっと女っぽすぎる気はしたけれど・・・。
鎌倉に来た頃のすずちゃんは、もっと幼くて少年ぽいイメージだったので。

そんな文句いっぱい気分で映画を見終わった直後、隣の女性二人客は涙を吹きながら「すごいよかった~、感動した~」って言ってた・・・。あぁ、人それぞれなんだなぁと思った。
でも、これやっぱり「海街Diary」って名前で映画にしてほしくなかったなぁ。
あくまで原案ということにして別タイトルにしてやってほしかった。とても似てるけど味わいが全然違うんだもの。

私の希望としては、実写化するなら連ドラでやってほしい。
欲を言うなら、NHKの朝ドラ並みの長尺で!(笑)。
昔やっていた、NHKのよるドラの「ニコニコ日記」(脚本:大森美香)の雰囲気みたいなのを望む。

だいたい、すずちゃんが鎌倉行きを決めるまでが映画だとあっという間すぎて理由が全然わかんないよー。
あれ連ドラだったら、初回90分スペシャルにするところやもん!

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